深層学習(deep learning)と機能的MRIの融合による、個人の嗜好を模倣する人工知能の作成

深層学習(deep learning)は機械学習の一分野であり、画像識別などの課題において高い性能を示しています。また、深層学習を用いて訓練された人工神経回路が、哺乳類の視覚情報処理経路と類似した情報表現を獲得することが報告されています(Yamins et al., 2014, PNAS; Güçlü & van Gerven, 2015, J. Neurosci.)。

私たちのグループでは、深層学習と機能的MRIを融合させることにより、個人の嗜好を模倣する人工知能の開発に取り組んでいます。その関連研究として、主観評価データから個人の好みを推定し、好みに合う絵画を推薦するシステムを開発しました。

また、絵画・風景写真・顔画像に対する主観評価データを解析し、異なるカテゴリ間における美的嗜好の共通性を検討しました。その結果、あるカテゴリに対する嗜好の個人差を手がかりに、別のカテゴリに対する嗜好評価を予測できることを明らかにしました(Pham & Chikazoe, Frontiers in Neural Circuits, 2026)。

開発した絵画推薦システムは、以下のリンクからお試しいただけます。

  1. 絵画の好みをもとにした絵画推薦システムを体験する
  2. 写真の好みをもとにした絵画推薦システムを体験する
  3. 男性の顔の好みから絵画を推薦するシステム
  4. 女性の顔の好みから絵画を推薦するシステム

関連論文: Pham & Chikazoe, Frontiers in Neural Circuits, 2026

脳機能ビッグデータ解析によるこころの基本単位の解明

心理実験を適切にデザインすることにより、特定の脳機能と脳領域の対応をつけることが可能です(順推論)。しかし、脳活動から被験者のこころや認知の状態を推定すること(逆推論)は困難です。それは、単一の認知機能であっても複数の脳領域を必要とする一方で、単一の脳領域は複数の認知機能に関与することが先行研究から明らかにされており、脳機能と脳領域は多対多の関係にあることが示唆されているからです(Barrett & Satpute, 2013; Yarkoni et al., 2011)。

私たちのグループでは、この多対多の対応関係を明らかにすることで、適切な逆推論を行うことができると考えています。 この逆推論の問題については、生理研トレーニングコースで用いた「順推論と逆推論」のスライドをご覧ください。

また、従来の機能的結合解析と、脳領域内の空間的な活動パターンを利用した新たな解析手法を組み合わせることで、安静時fMRIデータから個人特性や行動を予測する精度を改善できることを報告しました(Yoshimoto et al., NeuroImage, 2024)。

さらに、2026年度には、JST「AI for Science革新的研究推進事業(ARiSE)」の「国際・融合型」に、研究課題「fMRI基盤モデルの作成:個別化医療とこころの基本単位の解明に向けて」が採択されました。

関連情報:

ヒト味覚の神経基盤の解明

げっ歯類やサルの研究から、味覚の処理中枢は島皮質と呼ばれる領域であることが明らかにされています。 しかし、ヒトにおける味覚の処理中枢がどこであるか、味覚の質は脳内でどのように表現されるのか、といった基本的なことすら、実はよくわかっていません。

私たちのグループでは、島皮質において、基本味覚(苦味、甘味、酸味、塩味)が脳活動パターンによって区別されていることを明らかにしました(Chikazoe et al., Nature Communications, 2019)。今後は、機械学習の手法を積極的に用いることで、ヒトの味覚がどのような脳の働きによって生じるかを明らかにしていきます。

関連論文: Chikazoe et al., Nature Communications, 2019

Chikazoe et al., Nature Communications, 2019

​精神・神経疾患のバイオマーカーの開発

精神疾患の診断・治療効果の判定は、医師の主観的判断によるところが大きく、evidence-based medicine (根拠に基づく医療)という観点から、これらを客観的に判断するためのバイオマーカーの開発が望まれています。近年、安静時脳活動データに機械学習を適用し、精神・神経疾患の診断や治療効果の評価に役立つバイオマーカーを開発する試みが進められています。しかし、臨床応用に向けては、予測精度や再現性、汎化性能などの課題が残されています。

私たちのグループでは、従来の機能的結合解析とは異なる新しい解析手法を開発し、精神・神経疾患のバイオマーカーへの応用を目指しています。これまでに、安静時fMRIの新規解析法によって疾患分類の精度を改善できることを示しました。

現在は、深層学習を用いて脳領域間の機能的結合を解析し、個人特性や精神・神経疾患を推定するアルゴリズムの開発に取り組んでいます。

関連する研究課題